円山鍼灸「円山漢祥院」 の日記
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全日本鍼灸学会に参加して。
2017.06.15
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平成29年度第66回 全日本鍼灸学会 学術大会に参加して
統合医療連携支援機構 渡邊 一哉
毎年楽しみにしている学会の一つに、この全日本鍼灸学会がある。
というのは、私は伝統鍼灸系の鍼灸師と思っているのだが、中医学や経絡治療といった伝統鍼灸を西洋医学という切り口で判断をし、それが世の中に出て行くということは国民に周知して納得してもらう治療を行う上でも、同意書を交付してもらう医師に対しても大きな説得力になると思う。
西洋医学、いわゆる現代科学という物差しで伝統医療を測ること自体気に入らない先生もいるのだろうが、それは日本が鎖国していた時代と同じである。鍼灸医療は他の医療との物差しで計られて行くべきだし、そうすることが信用に繋がる。6月10日11日はそういった鍼灸医療が国民の信用に足る医療であると新しい説明ができるべく知識を入れる大会であると思う。鍼灸にかかる患者さんはやはり勉強をしている、新しい知識を入れているという先生のところに多く集まるし、そういう先生のところには紹介も受けるようになる。自分のところに新患が少ないと思うのなら、まずは勉強だ。色々な戦略もあるだろうが、医療者のスキルアップというのは研鑽しかない。磨かれない刃物は切れなくなって行くのである。
今回の会場は東京大学である。数千名になるであろう受講者を受け入れる大学はメイン会場を安田講堂として、千人規模で入る講堂や数百人規模のホールや、研究棟を使わせていただいた。数ある教育講演、基調講演、指定講演とある中で、行きたい講演がかなり重なってしまい、ものすごく行けなくて残念な講演が多々ある。
その中でも、総合討論のIPS細胞と鍼灸治療に出てみたが、直接治療に関しての話ではないが、IPS細胞から神経幹細胞を作り、組織を培養し、例えば脊髄損傷の方の脊髄を再生すると、現在の価格で1億円かかるということだ。もちろん脊髄再生が一般的に行われるようになるとスケールメリットで安くはなるが、それでも数千万円はかかるということだ。IPS細胞の普及はこれまでの治療の方法がない
患者さんの福音ではあるが、健保財政にとっては悪魔である。100人脊髄損傷が発生するだけで100億、数万人になるとどうなるのか?もはや健保財政は保つことはできない。遅かれ早かれその現実はもうすぐ迫っている。オプシーボの数千万も保険適用が広がってきているのだから、我々鍼灸の療養費も破綻は目の前と考えたほうがいいと思う。指定発言者である、古川俊治氏(慶應大学医学部外科教授 参議院議員)は、小川卓良氏(東京衛生学園 講師)の鍼灸の療養費をもっと活用することで健保財政の破綻を防ぐという手もあると思うのだが、国にその考えはないのか?との質問に、我田引水にそういう指摘をする団体もあるように聞いているが、国にその考えは全くなく、健保は先進医療に使う方向にあり、伝統医療は排除するような動きがあるように感じられていると発言し、場内はどよめきが起こった。国民の総意で伝統医療を健保の療養費にと考えた時代もあるが、その総意は今やIPS細胞をはじめとする先進医療に国民の総意は向くだろう。対立構造を作ってしまえば間違いなく伝統医療は負けてしまう。
どうしても聞きたかった難治性神経疾患の鍼灸治療も、整形外科疾患の鍼灸治療もどうしてもパーキンソン病に対する鍼灸治療の果たす役割と今後の展望を聞きたかったために行けなかった。
院で、パーキンソン(PD)の方を数多く治療するがその治療に行き詰まりも感じていたからだ。
私個人で言えば、視覚支援高等学校の脳卒中後遺症の治療の講演を自身の行き詰まりからお断りをした。それだけに鎌ヶ谷総合病院 千葉神経難病センターの医師 湯浅氏のPD患者が小脳出血を起こし、一時は命の危険もあったが、なんとか回復したところPDの症状は全くなくなっていたという驚きの報告があった。
それから湯浅医師はなんらかの付着物質が脳内出血によって流れたのではないか?と考えた。PD発症が起こる前に数年前から臭いを感じなくなる嗅覚障害が発生している場合が多いそうだ。しかも、便秘を長期間に渡って起こしている患者さんに発症率が高いというデータもあるそうだ。異性タンパク質が嗅神経に付着し、臭いがわからなくなり脳内の黒質線条体にそのタンパク質が付着しPDが発症しているのではないだろうか?という事である。京都府立医大の建部陽嗣氏(鍼灸師 医学博士)は心筋シンチグラフィーをした時にPD患者とそうじゃない方は明らかに違う造影を示すと言われた。発症するしないに関わらずである。京都府立医大ではPDの診断にシンチをくわえはじめている。そうして建部先生のお話は海外のPD患者さんと日本の患者さんの違いについて話が始まった。シンガポールではPD患者さんの60%は鍼灸に通っている。アルゼンチンでも49% スェーデンでは30%の人が鍼灸治療にかかっている。日本では数字は出ていないが、うちではPD患者さんは一日一人くらい。PD患者の全体が10万人の患者さんがいると言われていることから、おそらく数%程度の方が鍼灸にかかっているのみなのだ。これは東洋医学の国としてはとても少ない。日常的にパーキンソン病を見ている水島クリニックの水島氏は、東洋医学の経絡治療により特有の振戦麻痺が減り、背中などの強直がなくなるという。これは経絡治療以外ではダメで、標示法をしたとしても本治法をしなければなかなかうまくいかないという。しかも、交感神経の興奮を抑えることが大事といい、治療の姿勢は仰向けがいいという。これは水島氏が伏臥位は交感神経はかえって興奮ししてしまうので、できれば仰臥位での治療をということをお話していた。しかも、鍼の深さは4ミリで統一しそれ以上は刺さない。刺すと交感神経を興奮させてしまうからという理屈だった。水島氏が治療した患者さんのビデオを流していたが、なかなか歩行できない方、手が震えてしまう方などもしっかりと普通に歩行ができるようになっていたのに驚かされた。
明治国際医療大の助教の福原氏はPD患者の周辺症状に着目した発表を行い、ここでも便秘はかなり患者さんがお困りだといい、その便秘治療に鍼灸治療はとても有効であり、漫然と下剤を使い慢性便秘を作り出してしまう前に鍼灸をやるべきであり、不眠症や冷え、痛みなども鍼灸をもっと使ったほうがいいというお話だった。
あまり長く書くと飽きてしまうだろうが、他にも臨床研究デザインをもっと地域で行おうという福島医科大学や、京都大学の福原先生のお話や、医療との連携をどのように行うか?に関してのお話もあり
いつもながら、モチベーションが上がる学会であった。
ぜひ、皆さんも足を運び刺激を受けていただきたい。鍼灸師が鍼灸をもっと好きになりもっと興味をもちもっと治療に生かすようにならなければいけないと思うのだ。